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最近”腐”の道に進みつつある女子
マイペースに更新していきます。
なんか真面目だー。
そういえばこんなんも書いてたなー。
最近はすっかり濃くなったけど(; -_-)
00もよろずも関係ないですが、良かったら読んでみてください。
ちなみに、コレは高校の時の部活の冊子に載りました。
多分発掘したら出てくると思う。
捨ててはないぜ。○誠学院高校文芸部のみんな!(誰も見てねぇよ
吉野の山は厳しい冬をむかえていた。毎年訪れる白い季節。冬は生きとし生ける者にとって最も過酷な季節だった。
自然は人間(ヒト)のことはまるで興味がない。いつもただ、掟に従い四季を繰り返す。そして今、この時は雪が全てを支配する。時には氷も。そして冬の舞にはいつも冷たい北風の存在があった。そして山の上は、それがとても顕著に表される場処だった。
そんな処に、ある小さな寺があった。
この時期、参拝客はほとんどおらず、世間とは切り離された特殊な空間になっている。寺の主でさえふもとの家に避難していた。
いつ雪崩が起こるとも限らない。真っ白な雪で覆い尽くされた場処だった。
しかし、その誰もいないはずの寺には人の気配がある。見ると裏手には薪が積んであり、入り口はきれいに雪が退かされていた。
何故こんな処に人がいるのか。答えは、ここにいる者達は時代の敗北者だったからだ。
主の名は源義経【みなもとのよしつね】。実の兄、そしてこの時代の実権を握る源頼朝を敵に回し、命辛々この地に逃げ延びてきた。
義経は寺の縁台にいた。彼は藍色の単衣を着ただけという薄着で、妻戸も格子戸も開けっ放しで外を見つめていた。雪がこの身に降りかかろうと、風が体を吹きつけようと、指ひとつ動かさずに人形のような顔で外を眺めている。
塀の外には山が広がっており、何万本の桜の木が、じき来るであろう春を待って眠っていた。葉はついておらず、太い立派な枝も、まだ若い力ない枝も、皆寄り添うように冷たい風に耐えていた。雪は次第に強くなり、今夜は吹雪になるだろう。実に心細い、淋しい光景だった。しかしとても、とても、切なくなる程、本当に―――美しかった。
どのくらい時が過ぎただろう。義経の後ろで衣擦れの音がした。見ると柔らかな表情(かお)をした女性が立っていた。白い単衣に紺色の袴という、変わった格好をしている。しかしその上から羽織った桃色の袿が女性らしさを演出している。
「義経様」
その女性は義経にそっと近づき、ささやくように言った。よく通る優しい声、しかし強い意思を持った声をしている。
義経は振り向きもせず、身動きひとつしなかった。しかし随分間をおいて、小さな声で言った。
「……静【しずか】、か」
か弱く、消え入りそうな声。
静は一瞬とても哀しそうな顔をした。
「こんな処でそんな薄着をなさって。御体に障りますよ」
しかし静は、笑みを作って彼の傍に袿を静かに置いた。少しの間、静は義経の傍にいた。しかし義経は、やはり身動ぎひとつせず、外を見ている。
やはり寒くなったのか、静は身震いをひとつして妻戸を下ろし始めた。しばらく彼女の動く音だけがその場に響いた。たいして大きくない音だったが、今はとても空に響く。
少しして義経が声を発した。
「山を見ていた」
低い、よく響く声だった。
「え?」
動きを止め、静は振り向いた。
義経は眉ひとつ動かさず、静の顔を見た。その顔には、いつもの無垢な微笑みが湛えられている。義経は微かに瞳を動かした。しかし義経は、何も言わずに前を向いた。
時が止まったようだった。義経は下を向き、拳に力を入れた。爪が食い込み、血がにじむ。
どうして、自分は弱いのだろう。この人を自分は護る自信がない。この笑顔を、仲間を、大切なものを護っていけないかもしれない。皆、無残に切り刻まれ、失うだろう。どうして自分はこうなのだ。そして、何故兄は。
「雪が降っているな」
義経は努めて明るく言おうとしたが、言葉はぎこちなく、血が板に擦れた。肩が震え、自分がとても情けなく思える。
「ええ。もう師走に入りましたから」
静は笑顔で言うと、小走りで義経に近づき、傍らに座った。
義経が息を吐いた。白い、真っ白な息。静は義経の手をとった。氷のように冷たい。無理もない。この季節に単衣一枚では凍え死んでしまう。
「山の上は特に寒う御座いますから。さ、これを」
静は少し急いで袿を義経に羽織らせた。
風邪を引くと困るから。この時期、逃亡はさらに困難になる。体調を崩しでもしたら、医者を呼ぶようなことがあれば、すぐに見つかってしまう。
静は義経のことが気懸かりで仕方がなかった。最近彼は悩んでいるように見える。病は気からとも言う。義経に何かあるとでも思うと、静は身が裂けそうな気持ちがした。そんななか、義経が久々に言葉を発した。それは何としてでも聞いてやらねば。
一方、義経も考えていた。このいつも傍にいてくれる、いつも隣で微笑んでいてくれる愛しい女性のことを。
いつかは多分、彼女も兄によって殺されてしまうだろう。兄の追手はそんな簡単に逃げられるものではない。しかし彼女は自分についてくる路を選んだ。ならば全力で護り抜かねば。――でも、護る自信はない。
義経は静の手を握り返した。
温かい。静の体温が体の芯まで温めてくれる。いつまでこの手と一緒にいられるだろう。
義経の頬を一筋の涙が流れた。自分はなんて無力なんだろう。
「静」
義経はかすれた声で言った。
「お前はこの景色を見てどう思う」
静は義経の手を両手で包み込んだ。
そして柔らかな声で優しく、静かに言った。
「とても淋しいものだと。でもとても美しい」
静は続けた。
「風情があり、とても奥ゆかしい」
「そうか」
いつもの静の答えだ。良かったと思う反面、この心に自分の負担を押し付けて良いのだろうか。そんな疑問が頭を掠める。
「しかしながら、わたくしたちを阻むものでもありますわ」
強い声だった。
「……そうだな」
いつも思う。静は強い。自分よりも何倍も。彼女はこの現実を受け入れ、次のことを考えているのだ。「今」を引きずる自分より。
「どうなさったのですか」
静はついに義経に尋ねた。
自分は知りたい。この人が何を思い、何に苦しんでいるのかを。
「なにがだ」
義経は至って普通に答えた。しかし、次の静の声を聞いてはっとした。
「なにか痛そうな顔をなさっておりますので」
「どこも怪我などしておらぬ」
義経は重く、強く言った。しかし静の顔を見ると、弱気になったように顔を背けた。
静の目には涙が溢れていた。しかし一途な、真っ直ぐな瞳でぐっと義経の顔を見上げていた。
「心が痛うは御座いませんか」
顔を反らした義経に、静は涙声で言った。
義経はそっと目線を静の方へ向けた。そして目があった。結果、義経は目が反らせなくなった。というより、目を反らすと、静の思いを台無しにするような気がして、できなかった。
言葉が出てこない。何故彼女は泣いているのだ。
「あの時からですわ」
そう言って、静は少し目を伏せた。そして思いきったように目を上げ、きっぱりと言った。
「頼朝様から討伐の命が下ったときから」
静の瞳から涙がひとつ落ちた。続いてどんどん涙が頬を滑った。
「わたくしは義経様について行くと誓いました。ですから、どんな目に遭おうと、どんなに辛かろうと、覚悟はできております。だけど……」
静は義経の肩に頬を乗せて言った。
「だけど、貴方がそんな顔をすることだけは耐えられない」
義経の目が大きく揺らいだ。
「悲しまないで下さい。わたくしは、静はずっと傍におりますから」
しばらく静の嗚咽の音だけが続いた。
そうか。お前はそんなにも思っていてくれたのか。私は自分のことしか考えていなかったよ。いつも微笑んでいてくれたから。その笑顔に頼りすぎていたんだ。
義経は目を閉じると大きく息を吸った。
「吉野の山は、春になるととても桜が美しいという」
語り始めた義経の顔を静はそっと見た。
義経は静を見て、笑った。優しい顔。でも、とても哀しい顔だった。
「しかし今は、こんなにも寒く淋しい」
静だけでなく、自分にも語りかけているようだ。
静は義経の顔から目を離し、外を見た。そろそろ雪がきつくなってきている。空は曇り、全体的にどんよりとしている。
静は再び義経の顔を見た。彼は遠くを見るように目を和ませている。
「何故兄上は私を捨てたのだろうか」
これが義経の悩みの根源たるものだった。
「私は、兄上と争う気は露ほどもなかった」
義経の声が小さくなっていく。
「存じております」
静はそっと呟いた。義経に聞こえたかは定かではないが。
「この雪は、まるで私のようだ」
「何故ですか」
静の問いに義経はただ微(わ)笑(ら)うしかなかった。彼女には知られたくなかった。この雪の、顔の下に隠された頼朝に対する大きな憎しみを。
「……そうかもしれませんね」
静は外の景色を見て言った。
義経は自分の気持ちを見透かされたと思い、少し動揺した。「何故そう思う」義経がそう問うと、静は笑っていた。
「雪は草がなくなってむき出しになった大地を覆い、護ってくれます。まるで私たちに対する義経様のようですわ」
そうか、私は護っていかなければならないんだ。慕ってくれる仲間を。
義経は妙に納得した。
理屈などいらない。感情もいらない。ただ、護らなければいけないのだ。でなければ、失ってしまう。
義経の心に闘志の炎が宿った。
護ろう。ただ、ひたすらに。
「義経様」
急に黙ってしまった彼を心配して、静は彼の顔を覗き込んだ。
義経は静の頬に手をやり、軽く口付けた。
静の頬が紅く染まる。静の背中に両手を回し、頭の上から義経は問うた。
「ひとつだけ聞きたい。お前はこれからどうしたい」
静は義経の胸に頭を預け、静かに言った。
「義経様や、弁慶様と一緒に暮らしたい。質素な暮らしでもいい。貴方と一緒に――幸せに」
この小さな肩をとても愛しく思った。そして、自分を慕ってくれる仲間や愛しい女性を護り抜くことを改めて心に刻むと、より力を込め、彼女を抱きしめた。
この時、確かにこのふたりの間に「幸せ」はあっただろう。だが、この先に訪れる残酷な運命を誰も知る由もなかった。
雪は、だんだん強くなっていった。この先のふたりを、暗示するかのように。